前回の投稿で、私は喉頭癌で死の淵を彷徨い、「声」を失うことと引き換えで生きることを許された弟の事をお話しました。身近な肉親の生存の危機を体験して、「選択肢のなかった死」を静かに受け入れて逝った、特攻隊員たちの心の葛藤や悲しみを改めて思い知らされた。雄翔館を案内する時、分かったような事を言っていた自分が今更ながら恥ずかしい。
その弟の「声」が復活した。摘出した声帯の代わりに食道の壁を振動させて言葉を発する「食道発声法」という技術だ。まだまだ完璧ではないが、日常の会話はほとんど不自由なく行うことができ、意思の疎通も十分果たせる。一生訓練しても「ア」と、一音も発声できない人もいるというかなり難しい技術らしい。弟の場合、手術後1週間で原音の「ア」の音を出せるまでに上達した。手術をした大学病院の医学生たちにも講演会をとおして、実際に発声してみせ、驚きの的になっているのだとか。死の淵を彷徨い、「声」を失い絶望の中で、今弟は「声」だけでなく「生きていく目標」も手に入れたようだ。
きっと神様が弟にプレゼントしたに違いない。この「食道発声法」の習得方法を動画にしてユーチューブに投稿し同じ病気で苦しんでいる人たちに希望の光を届けたいと張り切っている。あまり、海原会の活動とは関係のなさそうな投稿で役員の皆さんから職権乱用だとお叱りを受けるかもしれませんが、「選択肢のある死」を乗り越えて頑張る弟の背中を押してやりたい。
今の世の中は、予科練生が生きていた世の中より遥かに生きにくい社会環境や難しい人間関係が存在する。私たち海原会はただ戦没した予科練生の慰霊だけでなく、この難しい時代を生きる上で困難に出会った人達に、立ち止まって自分を見つめなおせる場を提供できる存在でもありたい。
海原会 理事
食道発声法をご覧になりたい方はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=jLv2qSgOSlc&t=13s